viva_Arakawa

 うっかり約束した原稿の締切りがせまってきて、前夜から徹夜で机に向かっていたところ、明け方になってオリンピック・フィギュアスケートのTV中継が始まった。やがて、荒川静香の演技が始まると画面に吸い込まれる気持ちになった。純粋で、清冽な印象は、まさに芸術だと思った。繰り返し何度も見たくなった。若い頃始めてD.オイストラッフが演奏するシベリウスのヴァイオリン協奏曲を始めて聞いた時に身内に湧き上がってきた清冽な感動を思い出した。その時も何度も聴きたいと思ってわざわざLPレコードを買いに行き,4回も5回も聴いたものである。今度もDVDを買いに行くべきか迷っている。


 天才の芸術である。スポーツと芸術の合体であり、これこそが「アルス」だと思った。


 金メダルは勿論みんなの喜びである。しかし彼女の言動を見ていると、それよりももっと大切なものを求めていたように思われる。もう一人そんな考えのスケーターが居た。東独の金メダリスト、カタリーナ・ヴィットである。彼女は、ボスニア戦争のときにオリンピックに出て、平和を求める歌『花はどこへ行った』をテーマにして演技した。その年はメダルはとれず、6位以下に終わったが、多くの人の心に訴えた。


 アイス・スケートは、バレーの表現を超えた力があり、スポーツであるとともに芸術として、文化として評価され支持されるべきである。日本が世界に先駆けて「アルス」としてのアイス・スケートを育ててはいかがであろうか?
国をあげてメダルがとれたか、何色のメダルか、と騒ぎ、メダルがとれないと選手団を送ったことが無駄であり失敗であるとなげく。情けない精神構造である。


 拝金主義、拝点主義が精神を汚し、社会を乱している中で、荒川静香の清潔な精神が浮き出されたように思った。24歳の若い女性の精神が社会を変える力となることを祈る。 Viva Arakawa !!
(中井浩二)