謹賀新年

viva_ars2010-01-01

謹賀新年




「アルスの会」の原点に戻り、飛躍を目指した新しい行動計画を

 学術文化同友会「アルスの会」は文化としての学術を護るという行動目標を掲げて 2005年10月に旗揚げをした。研究者主導の下に進められて来た学術政策の下に成功を重ねてきた20世紀後半の学術研究が、科学技術基本計画に基づく国策的な視点に重きを置く新体制に移行し、研究者の意見・意思を反映するルートが著しく狭くなってしまうことに対する危機感の高まりから、「民」の意見を汲み上げ活かす組織の育成の必要性が強く望まれると訴えた。

 それから4年余りの年月が経った。始めの数年は先ず足場を固めること、そして科学者の仲間に訴えることを中心に考え、どちらかというと情報•意見の交換に重点を置いて内省的な活動を重ねてきた。先輩の励まし、同志の協力により「アルス論壇」「アルス文庫」などの活動が充実し着実に進歩してきた。これらは全て会則に謳うボランティアベースの活動である。会友の数も約90名におよび、さらにそれと同数或はそれ以上の数の '共鳴者' が居られて,声をかければ活動に参加頂ける状況である。そこで「アルスの会」は次の飛躍をめざしシリーズでタウンミーティングを3回開いた。京都、仙台では「アルスの会」の基本理念を確かめ、その総括を東京のミーティングで行って新しい行動計画を立てることにした。ところが、図らずもこの時に合わわせるかのように、新政権の行政刷新会議による「事業仕分け」による騒ぎが始まり、学術行政の在り方を考える良い機会となった。

「学問のことは学者が決める」という研究者主導の体制が崩れ、官僚•政治家主導の体制で重要な決定を下してきた21世紀の科学技術政策について再考する材料が提示された。「仕分け人に科学のことが判るか」とばかりに、ノーベル賞学者を集め、学長会議や、学会等による声明、アンケート調査などを集めて反論を重ねた現場研究者の努力は大変なことであったと思うが、問題の本質はもっと深く掘り下げて考えるべきところにある。

 わが国において20世紀後半に成功した研究者主導型の学術行政は、日本学術会議とその下部団体の努力によるものであった。とりわけ重要な機能は、大型の研究事業に対する厳しい事前評価であった。今では伝説のように話される激しい論争は評価の過程であった。 論争の中から原子核研究所等が生まれ、共同利用研究体制が育った。また、大型計画推進の道筋が造られた。科学者の理想を求める行動に対し、全ての研究者がそれぞれの理念•哲学を論じ、同時に科学者としての倫理を貫いた。

 この体制は、21世紀に入ると共に大きく崩れ、官僚•政治主導の行政が今日の科学技術を支配している。日本学術会議は形骸化し、全く機能していない。草の根の研究者達の意見を集約して行政に反映していた過去の活動に比べ、今では官僚の作業を補佐する以上の機能を果たしていない。何よりも研究者の自由な討論により、研究•教育の環境を論じ、科学の将来を討論してもそれを訴える場ではなくなっている。
 斯かる状況を打破し「文化としての学術」を護るため、学術文化同友会「アルスの会」を立ち上げた。それが「アルスの会」の原点である。4年余りの時を経て、今こそ強化を図る必要を感じる。「アルスの会」自身が民を代表する機関として、草の根の研究者の意見を学術行政に反映できる日をめざして地道に堅実な「世直し」の行動を始めたいと考える。同志の方々に訴え積極的な参加を期待する。
                      (同友会代表幹事:中井浩二)