『アルスの会』タウンミーティング@京都 :プログラムについて

『アルスの会』タウンミーティング@京都: プログラムについて


アルスタウンミーティング@京都は、いよいよ来週水曜日(7月22日)になりました。


「学問芸術と社会」というテーマのアルスタウンミーティングはこの京都の会を第1回として、仙台•東京などでも企画し数回のシリーズにしたいと考えています。いわば一連の討論の起点となる今回の京都の会では、先ず 第1部でJ .J.Rousseauの思想について理解を深めるため中川久定先生に講演をお願いします。京大名誉教授でフランス文学者の中川先生は、D, Diderot, J.J.Rousseau, Voltaireらによるフランス革命期の思想史の権威としてご高名の方ですが、Rousseauについて奥深いお話をいただけると期待して居ります。

 Rousseauは、彼の第一論文(「学問芸術論」)で、知識よりも徳を重視し、「学問芸術が完成に近づくと魂が腐敗する」「生活の便宜が増大し奢侈が広まると徳が消滅する」と論じています。今日の社会をみると、彼の言う通りになっていると思えてなりません。科学技術の振興という政策の下に資金や名声を求めて忙しく走り回る研究者の姿を悲しく感じています。
 しかし、考えてみるとRousseauは、その後に起った産業革命のことを知らないで論を立てています。産業革命がもたらした社会への影響は甚大なものであり、彼の考えに立ってみれば、許せないことが起っていたということになります。中川先生のご講演の後、そのことについて時間を設け討論したいと考えます。

 産業革命が導いたものは「文明」の誕生であって、それが社会にもたらした影響には、光と影の両面がありますが、産業公害、環境破壊、兵器開発、世界大戦、資本主義経済などなど、負の要素を無視することはできません。まさに、生活の便宜が増大し奢侈を広めることになりました。


 第2部のパネル討論会には益川先生が参加してくださることになり中川先生と話が弾めば大変興味深い討論になると思っています。そこで、先ず「文化と文明」というテーマで議論する機会を設けました。
かつて、学術会議で「文化としての学術」特別委員会が組織され大議論が重ねられた末、結局結論に至らなかったと聞いています。「文化」と「文明」について文学者の中川先生と物理学者の益川先生を中心にして議論できれば良いなと考えております。

 Rousseauは、学問芸術の成果が奢侈を広め徳を消滅させるという学問芸術について否定的な考えを論じました。実際、今日の世間はそのとおりであります。Rousseauの批判は、今日の「文明」社会に対する批判のように聞こえます。その中で「学術文化」を護ることの難しさを感じている今日このごろです。

 学問芸術の振興に対して否定的に聞こえるRousseauの考えに対し、「アルスの会」ではWeisskopf教授の言葉を重視してきました。教授は、反科学的な風潮を戒め「精神的な汚染の進む社会を救う道は学問と芸術である」と学問の重要な役割を強調されました。

 わが国には第二次世界大戦で壊滅的な状況に陥った学術研究を、廃墟の中から立ち上がり、地道な積み上げによって、トリスタン・Bファクトリーのような巨大施設を建設して遂に世界のトップに立った素粒子原子核研究の半世紀に亘る歴史があります。この20世紀後半の半世紀に日本で起こった歴史は、湯川・朝永・坂田に始まり小林・益川・南部によって一つの時代を作り上げるものでありました。

Rousseauは,これを何と思うでしょうか?日本で起こったこの学術振興の努力は、まさに Weisskopf の精神を具現したものでありました。パネル討論会では、素粒子研究の歴史における研究者の努力について二宮先生に話していただこうと考えました。

 最後に、現在のわが国の研究環境について問題点をみんなで論じ、自由闊達な議論を展開したいと思っています。現場の問題についてはアルスの会幹事の中野貴志さんに問題提起をお願いしました。

21世紀に入って10年が経とうとしています。その間に積み重ねられ固められてきた体制は明らかに誤った方向に歩んでいると思います。各大学•研究所の研究教育環境は大変です。研究資源の獲得に貴重な時間を費やし、「徳」を失った研究者が育つ環境になっています。何とかしなければならないでしょう。それでは何をすれば改めることができるのでしょうか? みんなで考えたいと思います。


                   「アルスの会代表幹事」中井浩二:nakai@post.kek.jp



<参考>

「アルスの会」ホームページ に、関系する意見・論文・エッセイ等が

 掲載されています。予め御覧になって参考になさって下さい。

[アルスの会]トップページ http://viva-ars.com/ から次の各パートに進めます。

[アルス・フォーラム] http://www.viva-ars.com/bulletin/

[アルス論壇]:http://www.viva-ars.com/rondan/

[アルス文庫]:http://www.viva-ars.com/bunko/

[アルスの広場]:http://d.hatena.ne.jp/viva_ars/(本会のブログです。)