謹賀新年

viva_ars2008-01-01

謹賀新年




餃子店「京都珉珉」の創業者古田安氏の高貴な精神

 京都に餃子がうまい「珉珉」という店があることは関西の人でなくとも知っている人は多い。

今では、京都の街のあちこちで「みんみん」の看板を見る。創業者の故古田安氏は大分県出身の画家であるが、戦後の厳しい時期に京都市下京区木屋町に店を開かれた。その時のことであろう

   『絵を描いて飯を食おうと思うと、絵がダメになる』

と言って飲食店を始められた。そして画家としての道では「鉄鶏会」というグループを造り、若い画家を集めて京都の画壇に活躍する人達を育てられた。その人達の多くはその精神を継ぎ「珉珉」やその他の飲食店経営で生計を立てつつ、画家として国内外で活躍された愉快なグループである。因みに「鉄鶏会」という名前は、この世でうまいものは「鉄(フグ)と鶏(トリ)」だ、という信念に基づいているそうである。また、「珉」という字にもこだわりがある。この字は日本にはない漢字であるが、「王」と「民」が同列に並んでいるので気に入ったそうである。


 もう一つエピソードを紹介する。かつて東大原子核研究所には高エネルギー部と低エネルギー部があった。後者は後に核物理部と名を変えた。非常に初期のことであるが、イスラエルからの客員教授の某氏が帰国にあたって感想を述べた。

   『高エネルギー部の人達は、物理をやる為に飯を食っている、

    低エネルギー部の人達は、飯を食う為に物理をやっている』と。

当然、核物理研究者は怒ったはずである。先輩から聞いた話であるから、詳しいお話はどなたかに教えていただきたいが、世の中には、この二つのタイプの研究者、研究グループ、研究機関があるということは誰もが感じているところであろう。

 昨今の科学技術振興策の中で、研究者のほとんどが『飯を食う為に研究をやっている』。こんな世界を造ったのは、誰の責任であろう?

 学術研究に携わる人達に、故古田安画伯の高貴な精神を訴えたいと思う。 (中井浩二)